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Eナース

S-QUE院内研修1000’ & 看護師特定行為研修

第20回 医学的診断のHOW TO ~医師は病気をこうとらえている~ [応用]

聖路加国際病院 救命救急センター長
石松 伸一

ライブ研修 1月19日(水)/ オンデマンド研修 1月24日(月)〜2月14日(月)

本来、医療者であれば、病気のとらえかた、たとえば診断や処置などの流れは多少の違いはあっても優先順位や手順はみな同じであるはずです。これは時間的余裕のあるときにはいいのですが、救急や急変のときの危急の判断は結果に大きな影響を与えます。ここでは、患者急変の事例を紹介し、実際にどのようにして起こったか、どうすれば急変を防げたか、次の症例にどのように生かして行くかを解説するとともに皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

発信会場:聖路加看護大学 看護実践開発研究センター(東京都中央区)

第20回 医学的診断のHOW TO ~医師は病気をこうとらえている~ [応用]

質疑応答

  • 最初に診断のつけ方の順序として、1)解剖学的、2)優先度順、3)目立つ順とありましたが、まず患者さんの様子がおかしいという時に、そこではどの方法で見て行けば良いでしょうか。
    最近救急の領域では、診察の手順が標準化されてきています。皆さんもご存知と思いますが、特に外傷の初期治療はかなり標準化されてきました。そういった所で取り入れられているのが2番目の優先度順、生命に影響を及ぼす危険性の高いものから順番に除外をしていく、あるいは診断をしていき、すぐに治療に結びつけるということがあります。ただ、優先度順だけでやっていくと、細かいところを見落とす可能性もあります。生命への危険という観点からは優先度順ですが、全ての患者さんを優先度順で判断すれば良いわけではありません。例えば歩いて来て熱があるという方に対して何をするかということより、熱があるが患者さんの状態が落ち着いている状態であれば、何を急ぐべきか、1番重要なのは患者さんが何を心配していてどうして欲しいのか、というところです。例えば急ぐものから、肺炎、尿路感染症を鑑別しました、とあっても、患者さん自身の解釈モデルがあります。実は家族にインフルエンザの方がいて自分の熱もインフルエンザかどうか心配で来たというのであれば、解熱剤だけ処方してそれを飲んでおけば大丈夫ということではなく、インフルエンザかどうか診断しコメントしなければなりません。3番目に「目立つ順、気の向いた順」とあり、行き当たりばったりであまり勧められる方法ではないのですが、例えば救急外来に「お腹が痛い」と訴えてきた患者さんに、頭の先から神経所見をしっかりとることではなく、まずお腹が痛むのはどのように痛いのか聞いた上で必要であれば他の部位の診察をすることになりますから、一概に悪いとも言えません。この辺をうまく組み合わせて診断を進めていく必要があります。
  • 緊急度や重症度が高いというのは、具体的にどういうものがありますか?
    例えば外傷でしたら気道の閉塞があります。気道が閉塞してしまうと、いくら外傷の部位の治療がうまくいっても、次に呼吸停止、心停止ということになってしまいます。気道の閉塞があるかどうかをアセスメントして、呼吸器の関係ですと、重症度が高いとなると、例えば処置で回避できる緊張性気胸とかであるかどうか、真っ先に診断していきます。緊急度が高いものとしては、緊急手術が必要で、しないと患者さんの機能的予後が悪くなる血行再建などが挙げられます。四肢の外傷で血管が閉塞している時には血行再建手術を急がなければなりません。手術を急ぐのであればどういった手術を必要とするかを含めて診断していきます。それが遅れて血行再建しても指がくっつきません、手が動きませんでした、などということがないようにしたいです。
  • 急変時の対応を振り返ることが重要だということを再確認したのですが、やはり看護師だけで振り返るのではなく、医師との協力の上で話し合いを持てるようにしたいと感じました。こういう振り返りを実際にやるにあたって注意点などありましたら教えて下さい。
    注意しなくてはならない点よりも、まず一緒に振り返りをしようと行動に至ることが難しいです。医者にも来てもらって「もう1度症例の振り返りをしたい」と言うまでが難しいのではないでしょうか。その日は外来があるとか、今忙しくて、とか言うかもしれませんが、ナースのスタッフ全員の意向でぜひやりたいというのであればドクターも来てくれると思います。一番の目的は同じことを繰り返さないこと、次に起こっても上手くできるように、という意識です。振り返りをするから1時間空けてくれというのは難しいかもしれませんが、とりあえず15分でも20分でもいいから医者からの意見を聞きたい、回避できたのかというのを医者はどう思っているのかと。先ほどいくつか事例を出しましたが、例えば心臓のバイパス後に腹部の大動脈が破裂したかもしれない患者さんについて、「それはあったけど今回の手術の目的ではなかったから」と、医者は言ったりするかもしれません。もしかしたら医師のチャーティングのプロブレムリストの2番目に「腹部の大動脈瘤 径7cm以上で次は手術適応」と書いてあったかもしれません。そういったことでいかにチームの中でドクターを取り込むということが、一番大事な点だと思います。
  • 急変の事例で振り返りをするという時に、誰が何をやらなかったから悪かったとか責めるようなことになりかねませんが、それを回避するのに何かありますか?
    振り返りをする際に担当のナースだけで行うと、立場として弱いのがやはり経験の浅い方です。経験の浅い方が、何が起きたのか自分でもわからなかったということで、それだけが強調されてしまう雰囲気になりがちです。前向きに振り返るためには、病棟のある程度立場のある方に加わってもらい、個人的に責任を追求するのではなく、組織として、システムとしてどうすれば良かったのかという観点で考えます。もちろん個人が気をつけてスキルを磨き、知識を身につけなければならないところはありますが、もしチームの他の人が受け持ちの患者さんについて経験の浅い方から相談を受けたときに、どのようにアドバイスし対応できたかということも含めて考えます。どうしても若く経験の浅い方は自分が悪かったと自分自身を責めますし、特に結果が良くなかったケースであればずっとトラウマで引きずってしまいます。今経験がある方でも若い頃の失敗はずっと忘れず心の中に残っていますよね。それを忘れるのではなく、失敗から得たものを自信につなげられるようにしていただきたいです。
  • 診断の順序のことですが、優先度順で、様子がおかしいときに例えば気道とか循環器といった生理学的に不安定なことを優先していくという考え方と、一方で症状をベースにした鑑別診断の中からみていく、例えば腹痛があれば腹部大動脈溜を疑うとか鑑別診断をしていくやり方があります。看護師にとってはABCの方がわかりやすく、鑑別診断はトレーニングを受けていないので、腹痛だったら何を疑うのかと考えるのが難しいです。その辺でこういう勉強をしていくと良いというアドバイスはありますか?
    勉強の方法というのはなかなかないのですが、症状から入っていくと、迷路に入ってしまいがちです。例えばお腹が痛いと患者さんが訴えられて診察してみると上腹部で、我々からしたらそこは胸部と言っていいくらいで、みぞおちが痛いと言っても実は心筋梗塞だったりすることもあります。あるいは腰痛だと言われて、それが腰痛持ちの患者さんだといつものことだと思いがちですが、よくよく聞いてみると腰よりもやや上の背部痛で、実は大動脈瘤の切迫破裂だったりすることがあります。患者さんの訴えをそのまま聞いて受け取るだけでなく、身体所見と鑑別とバイタルサインなどを併用して、何がこの患者さんに起こって、何を急がなければならないのかを総合的に判断していただくしかないと思います。急変ということは1つの施設でそう頻繁にあることではないとは思いますが、もしそういうことがあった場合、その事例は大事にしてみんなで共有してもらいたいと思います。患者さんから頭が痛い、お腹が痛いといわれた場合、具体的にどこがどういたいのか、もう1回よく聞いてみることです。そうすれば医療者側であればわかることが多いです。例えば尿路結石の方だと典型的な痛みは背部痛ですが、それから側腹部痛になり、下腹部に痛みが来るというのが普通の動きですけど、患者さんはお腹が痛いと言って来られますよね。よくよく聞いてみると最初は殴られたように背中が痛くて、病院に来た頃には脇腹で・・・というような問診をしていくと、尿路結石の典型的な石が下がっていく順番の痛みだったりします。それであれば次はどういった検査をしていけば良いか、患者さんの負担の少ない尿の潜血を見るか、超音波をやって水腎症があるかをみるか、自ずとはっきりしてきます。
  • 看護師として患者さんを看るにあたって、急変時に備える知識やスキルがあれば教えて下さい。
    急変時において一番重篤なのは蘇生です。ですから蘇生の対応はぜひ自信を持ってできるようにやっていただきたい。蘇生というのは、今は一般の市民でも一生懸命やっていますけど、手技的なことだけではなくて、医療者ならば医療器具を使っての蘇生が必要です。講義でもありましたが除細動器の使い方がちゃんとわかること、ドクターの指示がなくても除細動適応の波形が自分で判断できて除細動ができるということ。心室細動が起こっているのに、ドクターが来るのをずっと待っているなんてことがないように。蘇生の手技を自信持ってできるようになると、急変が恐ろしいということがなくなります。