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S-QUE院内研修1000’ & 看護師特定行為研修

第7回 接遇・新人教育のコツ

淑徳大学 国際コミュニケーション学部
池之上 美奈緒

ライブ研修 7月6日(水)/ オンデマンド研修 7月11日(月)〜8月1日(月)

昨今のリーダーシップを日本語で表現すると"対人影響力"と言えるでしょう。人を動かす(指導する)時に不可欠な力です。人は言葉だけでは動きません。「何を言われたか...よりも、それを言ったのは誰か...」の方が相手にとっては重要なことです。つまり、あなたの人間性が新人教育に大きな影響を与えるということです。しかし、難しく考える必要はありません。あなたも通った道なのですから、あなたが新人の心に寄り添い指導すればよいのです。

発信会場:会場:荻窪病院(東京都杉並区)

第7回 接遇・新人教育のコツ

質疑応答

  • 患者家族が質問、相談しやすい雰囲気づくりの仕方を教えて下さい
    これがコツというものではなく、日ごろからコミュニケーションをこまめに取り「なにか、気になることがありましたら、いつでもおっしゃってください」と声をかけておくことです。折り入って相談があるようなときは、他の人が通らない落ち着いた部屋に案内し、じっくり話を聴きます。説明をしなければいけない内容は、相手の理解度を確認しながら、途中で「ここまでで、なにかご質問はありませんか?」と口をはさめるタイミングを作ってあげます。専門用語は極力使わないよう、使わざるを得ない場合は、はじめにきちんと説明をしてから使います。

    忙しいあまり、相談や質問に対して解決や回答ができない状態が続くと不満が残る可能性があります。そのような場合は、日時を決めて約束をし、まとまった時間を割いて相談にのったほうが、中途半端な返答を繰り返すより相手の満足感につながります。
  • 難聴の患者さんとのコミュニケーションのとり方について教えて下さい
    話したつもり、わかっているはずと思っていると行き違いが生じます。患者さんによっては、聞こえていないことが恥ずかしく、わかったふりをする方がいます。世間話のような内容であれば、わかったふりをしていることを尊重してあげるのも大切なことですが、治療に関することや他の患者さんの迷惑になるようなことであれば、しっかり聴いて、わかってもらう必要があります。

    専門家ではないので、はっきりとは言えませんが、老人性の難聴は高い音が聞き取りにくいそうです。大きな声を出すのではなく、静かな場所で耳のそばで低めの声で話した方がよいと聞いたことがあります。大きな声で話すと、こちらも疲れますし、患者さんの目には怒っているように映り、恐怖心が湧いてますます聞こえたふりをしてしまうでしょう。聞こえているか否かは返答でわかります。「はい」の一言でも表情や目を見れば理解度を察することができます。言語に表れないノンバーバルの部分をしっかり観察することが大切です。

    また、一つの方法としてこちらから質問をするのではなく、相手に質問をしてもらうと、その内容から理解度を図ることもできます。コミュニケーションを上手くとるコツは"上手に話すことより、上手に聴く"ことだからです。

    最終的には、筆談であったり、本人ではなくご家族とのコミュニケーションになったりするのは、仕方のないことと思います。
  • 患者さんや家族を待たせてしまう時は、どのように対応すると良いでしょうか
    どのようなシチュエーションかわからないのでなんともいえませんが、最もよい解決策は"待たせない"ことです。"これでは答えにならない"と思われるかもしれませんが、一般のビジネス社会では当たり前のことです。確実に約束できる時間にしか約束しないからです。そのつもりでいても、医療の世界ではなかなかそうはいかないのが現実でしょう。では、場面に応じた解決策を考えてみましょう。その際、大切なことは"待たせている"原因を正しく探ることです。因みに、どんなにお待たせしても相手が不満に思わなければ問題はないわけですから、不満を感じた時に限定して考えます。

    人が待ち時間で不満を感じる場面は・・・

    1)予想を大幅に越えて待たされたとき
    2)具合や体調が悪く、待っているのがつらいとき
    3)待っている場の環境が悪いとき
    4)急いでいるとき
    5)順番を間違えられたとき
    6)なぜ、待たされているのかがわからないとき

    等々が考えられます。

    1)は、相手がどの程度の時間を予想してきているのかわかりませんので、情報を提供してその予想を修正してもらいます。これこれこういう理由であと何分かかります。という言い方です。6)も同じように情報を与えます。相手がわかっているとは勝手に思わず、ちゃんと説明してください。

    2)、3)、5)の場合は患者や家族ではなく、医療者側の問題です。状況を察するアンテナを常に張って、気配りしなくてはいけません。あるいは、仕事の優先順位を変えるなどの工夫が必要です。日常的にこのようなことが起こるのであれば、構造や仕組みにどこか無理がある可能性があります。職場全体の見直しが必要です。

    4)の場合は、例えば3時に約束をして所要時間30分程の説明なら、約束をするときに"1時間ほどかかるので、終了は4時ころかと思います"と余裕を持って伝えます。相手はそのつもりで時間を取ってきますので、30分遅れてもイライラせずに待つことができます。その際にも、ただ待たせるのではなく、誠実に状況を説明するべきです。早く終わる分には嬉しいですから問題ありません。

    以上のようなケースを参考にしながら、相手の状況や距離感、人柄などを考慮に入れて、その都度最良の方法を選択してください。すべての場面で臨機応変な対応が求められます。それが本来の接遇かと思います。

    くどいようですが、どんなにうまく待たせても、病人に薬を与える対処療法にすぎません。"なるべく待たせない"という予防方法を考えてください。
  • どの程度の尊敬語や謙譲語が必要なのか、またその使い分けについて教えて下さい
    敬語そのものにどの程度というものはありません。あるとしたら、人が勝手にランクをつけてしまっているだけです。敬語がある国はそれほど多くはありません。生まれた背景には、身分制度などその国の文化が関係してきます。

    まず、敬語で話す意味合いを考えてみましょう。

    1) 年上と年下、上司と部下、売り手と買い手、そして、患者と医療従事者、というようにお互いの立場を明確にする
    2) 相手への敬意を表す
    3) 尊敬語、謙譲語、丁寧語を使い分けることで、知性や教養がわかる
    4) 育ちや品位が表れる
    5) 人間性が見える

    ざっと、思いつくだけでも以上のことがわかります。日本では、初対面の方と話をするとき、老若男女誰にでも通用する共通語が敬語なのです。敬語のおかげで誤解を生むことなく、その場の会話が成り立ちます。

    発想を逆転すれば、敬語で話さないということは上記の5項目を無視した行為といえるのです。一般ビジネスの世界では、何社もの人間が集まってプロジェクトチームを作り、大きな仕事を達成します。親しくなったからといって、友だち言葉で話すことなどありえません。部下が上司に友だち言葉で話すこともありえません。しかし、ちゃんとチームワークよく絆は保たれています。

    かつて、患者は"お医者様に診ていただいて"いました。子どもの頃、母がお金を払ったうえに手を後ろに組んで偉そうにしているお医者様に"ありがとうございました"と頭を下げている姿をよく覚えています。しかし、今、時代は変わりました。"お医者様"は"医師"になりました。医療を提供する側と受ける側です。どちらが上でも下でもありません。ただ、立場が違うだけです。となると、立場を明確にしなければいけません。だから、敬語で話します。それだけのことです。

    参考までに、私は授業中、学生たちに尊敬語は使わないまでも丁寧語で話し、自分のことは謙譲表現しています。学生はもちろん、尊敬語で話しかけてきます。しかし、講師としてではなく、私的に話をするときには、敬語ではなく友達言葉で話します。「忘れちゃった。ごめんね」と言いますし、学生も「いいよ」と言ってくれます。つまり、自分が今、どの立場で話をしているかをわきまえればよいのです。敬語のランクではなく"公私のわきまえ"ということです。ごちゃ混ぜにするから、誤解が生じるのです。日本は敬語の文化であることを忘れないでください。そして、今、相手は自分にどのような言葉遣いを求めているかの判断を間違えないでください。その的確な判断が医療現場における接遇なのではないかと思います。
  • 接遇に対するモチベーションを維持する方法をアドバイスお願いします
    これは、医療の世界では難しい課題です。なぜならば、接遇の土壌がないからです。土壌がないところに、いくらお辞儀の仕方や、身だしなみの話をしても定着することはまず無理なのではないでしょうか。よって、私は以前から接遇を語る前にそういう風土を作りましょう。と呼びかけています。

    実は、今は過渡期なのです。風土というものは、長い時間をかけて培われた文化ですから、同じくらいの時間をかけないと変わらないつもりでじっくり取り組んでください。次の世代に伝える感覚でいいと思います。

    医療接遇の基本的概念を確立するために、定着しない原因を考えてみましょう。第一に、現場にそぐわない接遇を取り入れようとしている傾向があります。これはスタッフばかりではなく、患者も受け入れがたいものだったのではないでしょうか。そもそも"接遇"の言葉が独り歩きして、意味すら解せずに"接遇委員会"が発足したのではないでしょうか。一体、接遇とはなんでしょう?お客様のニーズやウォンツに的確に応え、満足していただくことではないでしょうか。ホテルだったら"おもてなし"かもしれません。しかしながら、医療現場に患者が訪れる目的は、最善の治療を施してもらうことです。もてなされることが目的ではないはずです。第二に、一つ屋根の下に、接遇を目指している人とまったく意に介せず仕事をしている人たちがいることも定着を遅らせています。職種によって差があることは、努力している人間の足を引っ張りますし、患者側も混乱します。

    医療接遇が目指す先は、理念に則ったものでよいと思います。医療行為と接遇を切り離して考えてはいけません。例えば、信頼していただくためにどうすればよいのか、安全をまっとうするために日ごろから取り組むことはなにか、それを深く深く一人ひとりが追求し、表現することが医療に求められる接遇かと思います。より信頼を得るためには言葉遣いを丁寧に、挨拶もきちんとした方がよいでしょう。清潔感のある身だしなみは必須です。安心安全を確保するためには、密なるコミュニケーションが必要かもしれません。そう考えれば、本来モチベーションなど関係ないはずです。仕事そのものが接遇なのですから。

    スタッフ全員が、職域を越えて理念を基に、意識を一つにすることに取り組んでください。どこの病院に行っても理念を答えられないスタッフがほとんどです。ビジネス界で自社の理念やビジョンを言えない社員はいません。

    最後に。医療機関の接遇はリーダーのレベルがそのまま反映されます。経営陣はボトムアップを指摘しますが、それは虫のいい話です。徹底してリーダー格を教育することです。接遇のように個人に努力を課すことは、誰でも安易に流されます。つまり、リーダー以上にはなりません。あの程度でよいのかと判断するからです。形なきものを伝承するには、トップダウンで行ってください。
  • 接遇に対する一般的なマナー(電話対応、クレーム対応時など)として気をつけることとはどんなことですか?
    どのようにお答えしようか悩みましたが、文章で表現するのは至難の業です。知識としての回答なら、ここには書ききれませんので、その手の本をお読みになるとよいと思います。どの本を選ばれてもそれほど差はありませんから、ご自分の読みやすいものでよいでしょう。

    但し、基本的な概念だけ申し上げますと、接遇とは、お客様一人ひとりにご満足いただけるようにおもてなしすることです。となると、一人ひとりのニーズに応えなくてはいけません。この時点ですでに一般的な接遇のマナーというものはなくなります。室内温度一つとっても、寒いという人もいれば、暑いという人もいます。25度なら誰でも快適とはいかないのです。その点、接客マニュアルとしてなら"快適温度は25度。大半の方は満足"という一定路線は決められます。"暑い方、寒い方、自助努力でなんとかしてください"といえます。

    ところが、接遇となれば、暑い方にはうちわを渡そうか、エアコンの下に移っていただこうか、寒い方には毛布をお貸ししましょうか、ホットドリンクをお持ちしましょうか、となるわけです。

    では、医療現場の接遇とは、一体どうすればよいのでしょうか?と同時に、貴院が求める接遇とは何かをまずスタッフの皆さんが考える必要があります。目的とゴールを明確にイメージするべきです。これだけは、各医療機関が決めなければいけないことです。業界全体で決まっていることではありません。規模、地域制、診療科目、患者層、ロケーション、利用者数の増減など、環境によっても目指すゴールが違うと思うからです。できれば、どこにでもある病院ではなく、オリジナリティのある医療機関を目指してください。

    最後に。電話やクレーム応対を身につけたいのであれば、研修をお勧めします。ドクターが臨床を重ねて名医になっていくように、電話もクレームも経験を積まなければ臨機応変な対応はできません。臨機応変に対応できなければ、テープを流しているのと一緒です。相手の要望を察知して、その都度見合った対応をしていくことが大切です。とりあえず、研修形式で様々なケースを想定してロールプレイングを重ねれば、少しは身につくでしょう。クレーム対応も同じです。本を読んで得た知識を実際に訓練してみるしかないと思います。
  • 信頼関係が築けるような接遇の方法はありますか?
    これをすれば信頼してもらえるという魔法は、残念ながらありません。なぜならば、一人ひとり持っている個性が違いますし、相手との相性や年齢、立場、価値観、好みなどによって、スタートラインすら変わってくるからです。平たく言えば、医師と看護師では出会う前から患者が持つ信頼度に差があるということです。そのうえ、かなりの確率でいえることは、こちらが信頼していないのに、相手に信頼してもらおうというのは絶対(に近く)"無理"と思います。

    ただし、医療現場に信頼関係は不可欠です。この関係なくして医療行為はできません。つねに常に、よりよい信頼関係を目指していきたいお気持ちはよくわかります。

    さて、もし、あなたが患者だったらどのような基準で医療機関を選びますか?そこにあるからですか?コンビニならいいかもしれませんね。安いからですか?保険ではあり得ませんね。私ごとで恐縮ですが、目に入れても痛くないほど可愛い飼い犬の足に腫瘍ができました。どこの動物病院にしようか迷いに迷って信頼できる医院を見つけました。病気が重ければ重いほど、愛する家族であればあるほど、患者や家族は吟味して医療機関を決めます。つまり、あなたの病院のドアを開けたときには、患者は期待と信頼を持って来ているのです。こういう患者の気持ちをスタッフはどれくらい理解していますか。患者の方が先に充分信頼しているのです。だったら、全身全霊で応えてあげてください。それだけです。保険証を出せば、年齢、家族構成、勤務先、住所すべてをさらけ出しているのです。だったら、初診の方にはせめて「医師の○○です。看護師の△△です」と自己紹介してもいいんじゃないかなと、私は思っています。ますます信頼してしまいます。一般社会では、初対面の人には必ず自己紹介するのは当たり前です。(行っていたらすみません)

    人は、同窓であったり、出身地が同じであったりするだけで無条件に信頼してしまうところがあります。一瞬で親密度を感じるからです。こういった環境を人工的に創ることができます。それがコミュニケーションです。患者とこまめにコミュニケーションを図ることで、信頼関係を深め"あなたに任せるよ"という言葉をもらうことができます。これほど、医療従事者が働きやすい環境ないと思います。そのために、挨拶、表情、言葉遣い、身だしなみ、態度等の接遇行為を使って欲しいと思います。接遇によって信頼されるのでありません。 信頼を深めるために接遇があるのです。