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S-QUE院内研修1000’ & 看護師特定行為研修

第9回 看護必要度(1) ~ 看護必要度の基本的な考え方と今後の活用方法について

厚生労働省国立保健医療科学院
筒井 孝子

ライブ研修 8月6日(水)/ オンデマンド研修 8月8日(金)〜8月22日(金)

2008 (平成20) 年度診療報酬改定では、2006年に導入された新たな上位区分である7対1入院基本料を算定する病院では、看護必要度から開発された 「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」 を用いた患者評価を毎日、行うことが必須となり、この患者データの分析結果をもって、7対1入院基本料の届出の要件とされることになった。
同時に、地域連携診療計画作成時や回復期リハビリテーション病棟でも同じく看護必要度から創られた、急性期のHCU(ハイケアユニット)で必須となっていた「重症度・看護必要度に係る評価票」 のB項目から構成される 「日常生活機能評価」を評価しなければならなくなった。
このように、看護必要度は、急性期病院だけでなく、回復期リハ病棟においても活用されることとなり、看護必要度は、わが国の看護を評価する唯一の評価尺度として理解しておかなければならない重要なテクニカルタームとなった。
そこで本講義では、第1に、看護必要度が開発された経緯を、第2に、看護必要度の定義とその機能について、第3に、看護必要度の活用方法について説明する。

(1つのテーマで8月6日と8月20日、2009年2月4日と2月18日の全4回に分けて細かに学びます)

発信会場:発信会場:杏林大学医学部付属病院(東京都三鷹市)

第9回 看護必要度(1) ~ 看護必要度の基本的な考え方と今後の活用方法について

質疑応答

  • ADLと重症度についての項目はよくわかったのですが、実際に臨床でやっていると、もう1つ精神面での問題も大きく、たとえば患者さんの話を聞くなどのコミュニケーションの問題など、ナースの職務として必要です。加えて精神科の患者さんとのことなど、どのように評価していくようになっているのか、教えて下さい。
    現在の入院基本料が「患者の疾病や属性によらず、また同一疾患であって提供する看護内容や量が入院期間中に日々異なるにもかかわらず、常に同額の入院基本料が算定される仕組み」であり、これは看護師や患者から不公平であることに触れています(引用:pp23-24,「看護必要度の成り立ちとその活用(照林社)」。

    あなたのご質問はまさにその不公平についてのご指摘だと思います。看護必要度はその不公平さを改善することに一つの目的があります。つまり、今回の看護必要度は、手のかかる、かからないや、男性あるいは女性、若者か高齢者などの違いに応じた看護内容や提供量をきちんとつかんで、看護必要度別の患者さん分類を作るという機能を持っています。この患者分類を使えば、患者さんそれぞれの看護の必要性に応じた診療報酬の償還制度を考えていくことも可能になると思います。
    もちろん臨床現場での患者さんの評価は大変だと思いますが、それによって診療報酬が看護師さんの仕事内容や作業量に応じて適正に支払われるようにするためには、必要なことと思います。

    また、回復期リハ病棟では、今回の看護必要度を使った質評価に取り組むリハビリテーションの現場で記録や報告の質が劇的に改善したとも聞いております。今回の看護必要度の導入によって、同じように看護現場でも看護記録が改善されていく可能性はあると思います。
    評価をする上で、まず、精神科の患者さんであるから、特別に看護必要度の項目を追加するということは、ないということを申し上げたいと思います。どの診療科の患者さんも、同じように看護必要度の評価をすることになっています。

    それでは、精神科の看護において、患者さんの話を聞くなどといったコミュニケーションについては、どの項目で評価するかということですが、これについては、「他者への意思伝達」、「計画に基づいた10分間以上の指導」、「(看護計画に基づいた)10分間以上の意思決定支援」という評価項目があります。これで、先ほどのような看護は評価できると思います。
    精神科の患者さんだけではなく、お年を召した患者さんや小児の患者さんなどにとって、これらの項目はとても大事であると思いますが、ただし、これらの項目を診療報酬上で反映していくためには、臨床の方にお願いしたいことがあります。

     例えば、7:1の届出がなされた病院では、「患者さんのそばに行けるようになった」という話をよく聞きますが、我々が知りたいのは、「そばに行く時間が増えて、患者さんが、どういうふうに変化したか」ということです。単に、「計画に基づいた10分間以上の指導」が増えた。という結果が示されるだけでは、だめなのです。その結果、患者さんのQOLは向上したのか?患者さんの何がどのように変化したのかをレポートして欲しいと思います。
    特に精神科では、「皆さんが行っておられる、どのような看護によって、どのように患者さんが回復したのか」を、レポートしていただきたいと思います。それはとても重要なことと思いますので、ぜひたくさんの症例レポートをあげていって下さい。

    いずれにしても看護必要度は患者さんの満足感をために増やすために必要なことなのです。また、記録や報告は、その患者さんについての情報を職員全員で共有するために必要ですが、それ以上に、記録や報告はその患者さんに見せることで、患者さんの理解は深まります。ケア活動に協力し患者さん自身の自立促進にも役立つものなのです。看護師さんと一緒になって療養生活の改善にとって記録や報告は不可欠なものだといえるでしょう。
  • A-9の項目の中で「特殊な治療法」の抗悪性腫瘍剤の対象薬剤の使用について、アルキル化剤、代謝拮抗薬、あるいは抗腫瘍性の抗生物質、植物性アルカロイド、ホルモン、その他という記載がありますけれど、「その他」の中には1~5以外のものを入れるということでよろしいのでしょうか。
    「その他」は、1-5以外が該当します。
  • 全ての評価項目は記録がなされている必要があるということですが、B項目の「患者の状態」などの記録に、たとえば「寝返りができる」とかありますが、寝返りを打つ等の日常生活のレベルのことをいちいち記録していないことが多い場合、看護計画の立案の時に記録が必要と考えた方が良いのでしょうか。
    日々の患者の状況に関する記録というか、患者の状態を記したレポートが必要です。看護計画立案時のものとは別に必要です。
    当該患者さんの一日の状態を評価するための根拠となるレポートが必要ということです。

    このレポートに示されなければならないことは、当日、当該患者さんに、どうして、このような看護をすることになったかという看護をする「理由」、たとえば、B項目に関して言えば、看護師さんが、2人がかりで、なぜ寝返りをさせなければならなかったかということが、その患者の当日のレポートには理由があるということを前提としています。逆に言えば、そういう「理由」が書かれているレポートでなくてはダメだということです。
    看護必要度で要求している患者の毎日の状態の評価とは、評価をした根拠を必要とします。この根拠は、当然、総称としての看護記録に書かれているだろうと申し上げているのです。
    記録の基本原則は、一般的には、SOAP(Subject,Object,Assessment,Planning)が使われていますね。これに従って記録し、報告書を作成することは、おそらく現場で日常的に行われているはずです。

     ですから、「寝返りできたかできないか」を何かチェックした表があるというようなことを求めているのではありません。繰り返しになりますが、この看護記録というのは、「なぜ、こういう看護を提供されなければならなかったかという、根拠になるレポート」と考えていただければよいと思います。

    わが国でも、ICUなどではかなり詳細な記録が取ってあり、この患者像なら「当然、衣服の着脱はしないだろう」と考えられるレポートが整備されています。同じようなレポートを、一般病棟でも整備して下さいと申し上げているのです。もしなければ、今すぐ、書くための体制を整備する努力をしてください。

    何度も申し上げることになりますが、看護必要度の評価に必要とされるのは、「寝返りや起き上がりができるかできないか」の評価のチェック表ではないのです。患者さんが、そういう状態であるから、こういう寝返りの介助という療養上の世話という看護をしなければならないということが示されているレポートなのです。

    すでに、看護師さんたちは、「療養上の世話」に全業務の40%の時間を費やしています。その根拠になる理由を記録として示してこなかったことは、大きい問題です。例えば、業務量調査をしますと、患者さんは、朝は口腔清潔を自分でやっているのに、夜は、看護師がやっているとデータがでてくることがあります。なぜかと聞くと「夜は人手が足りないので、自分で口腔清潔ができるのに、看護師がさせてしまいました」といったことや、あるいは、「口腔清潔も患者が自分でやると時間がかかるので、看護師がやりました」といった内容が示されることがありますが、こういった状況は、専門性に基づいた看護からは、かなり遠いですね。

    このほかに、「療養上の世話」は、当たり前のことであるから、記録には書かれていないということもよく聞きますが、それでは、なぜ、日本の看護師さんが、これだけの時間を療養上の世話に費やしているのかは、説明できないということになります。「この患者のこんな状態で、なぜこんなに療養上の世話が必要になっているのだろうと」いう根拠となる患者の状態レポートがないことは、看護の大きな問題ですね。

    看護必要度を評価するということにあたって、こういった患者レポートというか、総称としての看護記録がないことが、実は一番、大きな問題といえますし、これから、専門職としての看護師にとって、これを書いていくことが看護を専門化していく上で大事なことといえると思います。