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Eナース

S-QUE院内研修1000’ & 看護師特定行為研修

第11回 周術期看護に活かす侵襲学(1)

杏林大学医学部付属病院
道又 元裕

ライブ研修 9月3日(水)/ オンデマンド研修 9月5日(金)〜9月19日(金)

重度の外科的侵襲などが加わった時の生体反応は、局所から全身に一連の複雑多岐な生体反応をもたらします。その反応が静寂化してきた時、生体は安定を取り戻します。しかし、過大侵襲からの回復遅延、合併症の併発などに苛まれると、急速に全身状態が悪化してしまいます。そこで、侵襲時の生体反応を踏まえた回復過程を細胞、組織レベルから理解することは、患者回復のアセスメントに必要であり、看護ケア実践の根拠になります。

(1つのテーマで9月3日と9月17日の2回に分けて細かに学びます)

発信会場:発信会場:聖マリアンナ医科大学病院(神奈川県川崎市)

第11回 周術期看護に活かす侵襲学(1)

質疑応答

  • 傷害期というところで侵襲がはじまってすぐの時期で、栄養のバランスを崩してしまう、実際の臨床でもトランスロケーションという段階で、消化管の機能を保つために、副交感神経を優位にしなければならないということもありますが、経腸栄養を早期にはじめようという時期にある場合、導入にあたっての看護でアドバイスがありましたらよろしくお願いします。
    非常に良い質問です。いつから経腸栄養をはじめていくかというのは議論がありまして、アメリカのように術後の患者さんは5~6時間すれば腸蠕動が始まっているのだから、24時間以内に始めればよいという話もありますが、我が国ではそれはいくらなんでもチャレンジということで早いところでも48~72時間くらいで、現実にはそれ以降に始まっているのだと思います。早期に経腸栄養をはじめていくにあたってのひとつの条件としては、まず循環不全がないということです。循環不全は循環血液が減少しているとか、心機能が低下しているとか、そういう状況があるならば仕方ないと思います。つまり薬剤によって循環系をサポートしなければならないだろうし、あるいは出血などが続いていて循環血液量の減少の状況を打破することができないのであれば、それは輸液、輸血をしながら血管循環を安定化しなければなりません。さもなければ、消化管を犠牲にせざるを得ないと思います。

    一方、非常に重要なのは、痛みが存在しているならば、まずその痛みを除去するということです。臨床の中では、痛みそのものが、交感神経の興奮をもたらしていることが多いということです。それから日常的でない散発的に行う不必要かもしれないケアが本当にこの患者に必要なのか、たとえば1時間ごとの吸引を単なるルーティーンとしてやっているのでないかという問題です。多くの場合、完全に意識がなく痛みがない状態でマネジメントしているのではないと思います。気管吸引によって循環異常がもたらされたり、血圧異常が起こったりすることがあります。そのときには消化管そのものにも、もっとも早期に大きな影響が与えられているということになります。そういったことを言っていくとキリがないですが、ひとつ重要なのはとにかく痛みを取ることです。どれだけリラクゼーションできる時間を与えられるかどうか。そしてケアの計画性。必要性と不必要性を考えることと、侵襲のレベルを考えるということと、侵襲度の低いものをどうやってセレクトしていくのかということが重要だと考えています。
  • 侵襲がかかっている場合だと、呼吸管理をしていても浅い鎮静になってしまうというところで、だけど肺炎などで敗血症になってしまったら、吸引もしなければならない、体位変換を深くして痰を出したい、もっと悪くならないように口腔ケアもしっかりやるなどと、どうしてもナースは一生懸命することがこの時に良いと思ってしまうのですが、ちょっとその辺をどう変えていけば良いのか、何かアドバイスをいただければと思います。
    私もかつては臨床の現場で一生懸命やっていましたが、患者にとって過剰に不必要なことをやることそのものが侵襲なのだとある時悟りました。典型的なのは、たとえば気管吸引ですが、気管吸引は何のためにするのかとまず考える必要があると思います。痰がそこにあるから気管吸引をするというのは、浅はかな判断だと思います。つまり痰が気道開存や酸素化に、どれほどのマイナス因子になっているかということを考えてみる必要があります。痰があったっていいわけです。気道開存と酸素化があればです。

    患者さんに意識があって「この痰を取って下さい」と言われるのであれば取りますが、そうでなければ、この痰がどれほどのマイナスになっているかと考えるわけです。気道閉塞するほどのすごく大きな痰塊でなければ、何の問題もないことと思います。むしろ患者さんのエスカレーションのメカニズムをどれほど有効に使うのか、適切な気道加湿をするのと同時に、ドレナージするためのポジショニングを考えるかどうか。そういうことを積み上げられてケア構造は変わっていくと思います。

    それから、たとえば人工呼吸器を装着されている患者さんが24時間の中でどれだけフラットな状況にされているのか考えると、その時間が長ければ長いほどVAP発生の確率が高くなってくるわけです。30度~40度アップしたうえで、快適な環境を整えてあげられるか、そのために適切なベッドを選択することも必要ですね。選んであげられるのは医師でなく看護師です。人海戦術にも限界があります。そこで、様々なものを駆使しながら、今やっているケアが患者にとってプラスなのかマイナスなのかという観点でアセスメントすることが重要です。